- 2008-07-05 23:01:56
M1の礒部です。
佐倉先生からもご報告があったように、6/25-27にかけて、スウェーデンで開催された、PCSTカンファレンスに参加してきました!以下で、少し長くなりますが、その報告をします。
2008年6月25日から27日にかけてスウェーデン(マルメ)、デンマーク(コペンハーゲン)において開催された、第10回PCST(The International Network on Public Communication of Science and Technology)カンファレンスに参加したことをもとに報告を行う。このカンファレンスにおいて、私自身としては “The outreach activities for the 10th anniversary of Brain Research Institute (BSI), RIKEN: a case report of public communication of neuroscience in Japan”という題目でポスター発表を行った。報告の形式は、最初に俯瞰的な概要と、3日間開催されたカンファレンスを時系列で報告し、最後に全体的な感想と、簡単にスウェーデン・デンマークの印象を述べたいと思う。
PCSTカンファレンスは、今回が10度目の開催であり、スウェーデンのマルメにあるマルメ大学を中心として開催された。PCSTは科学技術コミュニケーションを研究・実践する研究者、サイエンスコミュニケーター、メディア関係者が一同に集う場として機能しており、前回は韓国のソウルで開催された。
第1日目においては、午前中、ウェルカムスピーチとしてPCST関係者3名と、ゲストスピーカー3名のセッションが行われた。その中で特に印象的だったのは、カンファレンス開催に伴って音楽演奏とアクロバットがその口火を切ったことであった。私が知っている学会だと、形式ばった始まりが多い中、今回のPCSTは参加者を飽きさせず、カンファレンスに参加者を巻き込んでいく仕掛けがいたるところで垣間見られた。スピーチの中で興味深かったのは、ウィキペディアの創設者Larry Sangerがアメリカから駆けつけ、ウィキペディアのような試みがコミュニケーションをどのように促進させるのかについての講演であった。Sangerはコラボレーションの仕方を①normal collaborationと ②radical collaborationの2つに分け、ウィキペディアのような存在はradical collaborationの1種であり、そのような知の形態が今後続々と登場することを示唆した。Radical collaborationとは、つまり、ウィキペディアやオープンソースプロジェクトのリナックスに代表されるような、誰もがその知の参加者・構築者になれ、これまでの知のあり方とは一線を画したスピードで知の構築が進むあり方を言う。話自体はそれほど目新しいものではなかったが、ウィキペディアを現実に創設したという実績に裏付けられた話には聴衆の多くが聞き入った。質疑応答において、何点かの質問が行われたが、中国人ジャーナリストが、インターネットが使用できないような発展途上国においては、ウィキペディアのような仕組みがあったとしても、使用すること自体が難しく、その点をどう解決するのかという質問がなされた。Sangerの回答は、「正直、そういったような問題を考えたことがなかった」というものであったが、彼はその問題は今後、知の新しいあり方を考える上で大きな問題になることを認めていた。
午後は、私自身のポスター発表があり、その後、知人であるJSTの福士さんが口頭発表を行ったのでそれを聴きにいった。ポスター発表は、とてもよい雰囲気で行われ、私自身発表していて楽しかった。コーヒー片手に10数名の方々がポスターに興味を持ってくれ、理研の脳科学コミュニケーションのイベントはどのように行われたのか、またそのメリット・デメリットについて質問が寄せられた。特に子供向けのお絵かきコンテストについて興味をもってくださった方々が多かった。質問してくださった方で、印象的なのは、オランダのジャーナリストの方で、彼は以前東京にも滞在していたことがあり、理研にも取材に訪れたことがあったようで、話が盛り上がった。こういったインタラクティブな会話が出来ることが、ポスター発表の醍醐味であると感じた。
また、福士さんの口頭発表は、脳科学が日本においてどのような印象をもたれているかの意識調査を柱としたものであった。私は脳科学と社会におけるコミュニケーションや脳神経倫理を中心に研究しているが、福士さんの発表はまさに脳科学と社会の関係性を扱ったものであった。しかしながら、これは福士さんも発表において述べていたことだが、日本においてはこの種の研究は始まったばかりであり、データ等の裏付けが弱いことも確かである。そのため今後、研究を継続していく必要性を痛感した。福士さんが発表した中で、脳科学、とりわけサイボーグやロボット技術についての反応に男女差があったことは、統計上、十分有意差があり、興味深い指摘であった。この発表と質疑応答を聴いていて感じたのは、PCSTは本当に国際的なカンファレンスだということである。発表者も玉石混合、多種多彩、様々な国々から参加してきている。開催国のスウェーデン人はそこまで多くなく、オランダ、ドイツ、フランス、スペイン、ポルトガル、中国、韓国、ブラジル、アメリカ、そして日本、等々の国々からの参加者がいた。こういった背景もあり、発表も質疑応答も文化的差異・背景をもとにしたものが少なからずあったことは印象的であった。
2日目は、午後から場所をデンマークのコペンハーゲンに移し、コペンハーゲンビジネススクールで大規模なワークショップが開催された。PCST参加者約500名が14個のテーマ(気候変動と科学コミュニケーションに関するもの)について、90ほどのグループに分かれてワークショップを行った。このワークショップはコペンハーゲンチャレンジといい、ワークショップの前には、デンマークの気候・エネルギー担当大臣(日本の環境大臣に相当)がスピーチを行った。この方は女性の元ジャーナリストであり、彼女のスピーチに引き込まれた。私のグループは、「気候変動の事実や恐ろしさをどのように子供達に伝えるのか?」ということについて、ワークショップを行った。私のグループの構成メンバーは、イギリス人の大学講師、韓国の大学教授、ブラジル人のポスドク、そして私の4名であった。2時間にも及ぶ白熱した議論のあと、私達は、教育の場において、各国の小学生が自国の気候変動や環境問題の地域の特色について調査し、インターネットを通じて、その成果(状況)をお互いの国々の小学生が報告しあうという案を提出した。コペンハーゲンチャレンジの後は、近くの国立博物館に移動し、立食パーティが催された。
3日目、カンファレンス最終日は、1日目と同じくポスター発表を行い、また閉会セッションでのスピーチを聴いた。閉会セッションのスピーチにおいて、アルゼンチンからのゲストスピーカー、Diego Golombekはイグノーベル賞を「バイアグラが時差ボケに効く」という研究で取得し、科学コミュニケーションにおいても積極的に活動を行っている方であった。彼のスピーチはさすがにうまく、エンターテイメントのショーを見ているかのごとくであり、かつ内容も興味深いものであった。彼の主張を一言で述べれば、「科学は日常の中で本来は溢れており、そこに気づかせることで科学コミュニケーションを円滑に進めることができる」というものであった。
カンファレンス全体を通しての印象は、コミュニケーションの集まりだけあって、見せ方がとてもうまいということである。研究でも他の分野でもそうだが、内容の大切さもさることながら、見せ方も同様に重要であることを今回のカンファレンスは改めて気づかさせてくれた。そして研究者間や学生間、研究者と学生等の間の壁が非常に低く、気軽に話しかけ、質問しあえる環境があったことは特筆に値する。
最後に、アカデミックな側面以外で、スウェーデン・デンマークの感想を述べたい。日本が梅雨の時期、北欧は涼しく乾燥しており過ごしやすかった。しかし、食べ物は全体的に塩分がきつく、個人的にはそれほど満足できなかった。街の雰囲気はさすがに、デザイン先進国であるため、目を引くデザインや建物が多く、感銘を受けたことがしばしばあった。カンファレンスも含め、全体を通じて、4日間の滞在とは思えないほど様々な経験ができ、貴重な時間を過ごすことができたと思う。
佐倉先生からもご報告があったように、6/25-27にかけて、スウェーデンで開催された、PCSTカンファレンスに参加してきました!以下で、少し長くなりますが、その報告をします。
2008年6月25日から27日にかけてスウェーデン(マルメ)、デンマーク(コペンハーゲン)において開催された、第10回PCST(The International Network on Public Communication of Science and Technology)カンファレンスに参加したことをもとに報告を行う。このカンファレンスにおいて、私自身としては “The outreach activities for the 10th anniversary of Brain Research Institute (BSI), RIKEN: a case report of public communication of neuroscience in Japan”という題目でポスター発表を行った。報告の形式は、最初に俯瞰的な概要と、3日間開催されたカンファレンスを時系列で報告し、最後に全体的な感想と、簡単にスウェーデン・デンマークの印象を述べたいと思う。
PCSTカンファレンスは、今回が10度目の開催であり、スウェーデンのマルメにあるマルメ大学を中心として開催された。PCSTは科学技術コミュニケーションを研究・実践する研究者、サイエンスコミュニケーター、メディア関係者が一同に集う場として機能しており、前回は韓国のソウルで開催された。
第1日目においては、午前中、ウェルカムスピーチとしてPCST関係者3名と、ゲストスピーカー3名のセッションが行われた。その中で特に印象的だったのは、カンファレンス開催に伴って音楽演奏とアクロバットがその口火を切ったことであった。私が知っている学会だと、形式ばった始まりが多い中、今回のPCSTは参加者を飽きさせず、カンファレンスに参加者を巻き込んでいく仕掛けがいたるところで垣間見られた。スピーチの中で興味深かったのは、ウィキペディアの創設者Larry Sangerがアメリカから駆けつけ、ウィキペディアのような試みがコミュニケーションをどのように促進させるのかについての講演であった。Sangerはコラボレーションの仕方を①normal collaborationと ②radical collaborationの2つに分け、ウィキペディアのような存在はradical collaborationの1種であり、そのような知の形態が今後続々と登場することを示唆した。Radical collaborationとは、つまり、ウィキペディアやオープンソースプロジェクトのリナックスに代表されるような、誰もがその知の参加者・構築者になれ、これまでの知のあり方とは一線を画したスピードで知の構築が進むあり方を言う。話自体はそれほど目新しいものではなかったが、ウィキペディアを現実に創設したという実績に裏付けられた話には聴衆の多くが聞き入った。質疑応答において、何点かの質問が行われたが、中国人ジャーナリストが、インターネットが使用できないような発展途上国においては、ウィキペディアのような仕組みがあったとしても、使用すること自体が難しく、その点をどう解決するのかという質問がなされた。Sangerの回答は、「正直、そういったような問題を考えたことがなかった」というものであったが、彼はその問題は今後、知の新しいあり方を考える上で大きな問題になることを認めていた。
午後は、私自身のポスター発表があり、その後、知人であるJSTの福士さんが口頭発表を行ったのでそれを聴きにいった。ポスター発表は、とてもよい雰囲気で行われ、私自身発表していて楽しかった。コーヒー片手に10数名の方々がポスターに興味を持ってくれ、理研の脳科学コミュニケーションのイベントはどのように行われたのか、またそのメリット・デメリットについて質問が寄せられた。特に子供向けのお絵かきコンテストについて興味をもってくださった方々が多かった。質問してくださった方で、印象的なのは、オランダのジャーナリストの方で、彼は以前東京にも滞在していたことがあり、理研にも取材に訪れたことがあったようで、話が盛り上がった。こういったインタラクティブな会話が出来ることが、ポスター発表の醍醐味であると感じた。
また、福士さんの口頭発表は、脳科学が日本においてどのような印象をもたれているかの意識調査を柱としたものであった。私は脳科学と社会におけるコミュニケーションや脳神経倫理を中心に研究しているが、福士さんの発表はまさに脳科学と社会の関係性を扱ったものであった。しかしながら、これは福士さんも発表において述べていたことだが、日本においてはこの種の研究は始まったばかりであり、データ等の裏付けが弱いことも確かである。そのため今後、研究を継続していく必要性を痛感した。福士さんが発表した中で、脳科学、とりわけサイボーグやロボット技術についての反応に男女差があったことは、統計上、十分有意差があり、興味深い指摘であった。この発表と質疑応答を聴いていて感じたのは、PCSTは本当に国際的なカンファレンスだということである。発表者も玉石混合、多種多彩、様々な国々から参加してきている。開催国のスウェーデン人はそこまで多くなく、オランダ、ドイツ、フランス、スペイン、ポルトガル、中国、韓国、ブラジル、アメリカ、そして日本、等々の国々からの参加者がいた。こういった背景もあり、発表も質疑応答も文化的差異・背景をもとにしたものが少なからずあったことは印象的であった。
2日目は、午後から場所をデンマークのコペンハーゲンに移し、コペンハーゲンビジネススクールで大規模なワークショップが開催された。PCST参加者約500名が14個のテーマ(気候変動と科学コミュニケーションに関するもの)について、90ほどのグループに分かれてワークショップを行った。このワークショップはコペンハーゲンチャレンジといい、ワークショップの前には、デンマークの気候・エネルギー担当大臣(日本の環境大臣に相当)がスピーチを行った。この方は女性の元ジャーナリストであり、彼女のスピーチに引き込まれた。私のグループは、「気候変動の事実や恐ろしさをどのように子供達に伝えるのか?」ということについて、ワークショップを行った。私のグループの構成メンバーは、イギリス人の大学講師、韓国の大学教授、ブラジル人のポスドク、そして私の4名であった。2時間にも及ぶ白熱した議論のあと、私達は、教育の場において、各国の小学生が自国の気候変動や環境問題の地域の特色について調査し、インターネットを通じて、その成果(状況)をお互いの国々の小学生が報告しあうという案を提出した。コペンハーゲンチャレンジの後は、近くの国立博物館に移動し、立食パーティが催された。
3日目、カンファレンス最終日は、1日目と同じくポスター発表を行い、また閉会セッションでのスピーチを聴いた。閉会セッションのスピーチにおいて、アルゼンチンからのゲストスピーカー、Diego Golombekはイグノーベル賞を「バイアグラが時差ボケに効く」という研究で取得し、科学コミュニケーションにおいても積極的に活動を行っている方であった。彼のスピーチはさすがにうまく、エンターテイメントのショーを見ているかのごとくであり、かつ内容も興味深いものであった。彼の主張を一言で述べれば、「科学は日常の中で本来は溢れており、そこに気づかせることで科学コミュニケーションを円滑に進めることができる」というものであった。
カンファレンス全体を通しての印象は、コミュニケーションの集まりだけあって、見せ方がとてもうまいということである。研究でも他の分野でもそうだが、内容の大切さもさることながら、見せ方も同様に重要であることを今回のカンファレンスは改めて気づかさせてくれた。そして研究者間や学生間、研究者と学生等の間の壁が非常に低く、気軽に話しかけ、質問しあえる環境があったことは特筆に値する。
最後に、アカデミックな側面以外で、スウェーデン・デンマークの感想を述べたい。日本が梅雨の時期、北欧は涼しく乾燥しており過ごしやすかった。しかし、食べ物は全体的に塩分がきつく、個人的にはそれほど満足できなかった。街の雰囲気はさすがに、デザイン先進国であるため、目を引くデザインや建物が多く、感銘を受けたことがしばしばあった。カンファレンスも含め、全体を通じて、4日間の滞在とは思えないほど様々な経験ができ、貴重な時間を過ごすことができたと思う。
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