- 2009-10-12 20:32:06
修士課程2年の礒部です。佐倉先生からも学会報告があったように、私もカナダのハリファックスで開催された学会、Brain mattersに参加し、発表を行ってきました。以下、その報告を行いたいと思います。
Brain mattersは2009年9/24-9/26の期間において、カナダのハリファックスにおいて開催された、脳神経倫理学を中心テーマとした学会である。
学会初日となる9/24は、夜にレセプションが開催された。アルコールや軽い食べ物を片手に、様々な人々と会話を楽しんだ。台湾大学のWuさんとは、9/26のパネルセッションNeuroethics in Asiaのことについて会話をした。学会参加前から、機会があれば話したいと思っていた、Andrew Fenton(Dalhousie大学)とも知り合うことができた。Andrewは脳神経倫理の分野で注目される若手研究者であり、特にカナダでの脳神経科学デバイスの規制や、拡張された心の理論を脳神経倫理学の議論に援用しようとしている。彼とはかなり長い時間話すことができ、自分自身の研究の紹介や、Andrewが9/25に行う予定であった発表「脳と性」の発表内容についても話すことができた。また、同じDalhousie大学のChrisとSimonとも知り合えた。Chrisは哲学的な観点から脳神経倫理学にアプローチしており、Simonは社会学やSTSの領域から脳神経科学にアプローチを行っている。特にSimonは専門分野が近いこともあり、自分自身の研究の状況や今後の展望などについて有益なやり取りができた。以前、東京に招いたこともあり、親交のあるEricとは、彼の東京での滞在のことや、カナダの脳神経倫理学の現状について会話を行った。概して、Brain mattersのレセプションは、人と人の対話が起こるような空間が演出されていたように思う。
9/25は早朝からのポスター発表で幕を開けた。私自身のポスターは、脳神経科学の一分野であるBMI(Brain-Machine Interface) について、市民と専門家が、そのリスク、ベネフィットなどについてどのような認識を持っており、両者の認識の間にはどのような差異が存在するのかを明らかにしようとしたものである。ポスターを見に来ていただいた人々からは概ね好評であり、特に、Dalhousie大の神経科学部長Alan Fineからかなりの反応があった。どのような形でかは詳細には話せなかったが、東大との研究協力、例えば交換留学など、の要望を持っているということを伝えられた。
自分自身のポスター以外では、Kuhlmeyer (Germany) の“Persistent vegetative state: Neuroethical insights from the dramatic Italian of Eluana Englaro” が印象に残った。彼女のチームの研究は、一人の植物状態の女性に焦点を当てることで、長期間参与観察を行っているというものであった。また、Bastien (Montreal)のポスターは、“Ethical and social challenges in healthcare for adolescents and young adults with cerebral palsy” と題されたものであり、脳性麻痺の若い世代の患者に対しての倫理・社会的問題を具体的な事例に基づいて扱ったものであった。
オーラルセッションでは、Ericらの “Social expectations for performance enhancement” に参加した。Ericらの発表は、以前に東京で発表してくれた内容の発展版であり、着実に研究が進んでいる様子が理解された。内容としては、Public Understanding of cognitive enhancementであり、市民がどのようにエンハンスメントを捉えているのかということについて、質問紙調査票を用いて研究を行っていた。Ericからは、何らかの形で、我々のチームとも将来的に国際比較など共同研究ができればという要望を伝えられた。
また、レセプションでも知り合ったAndrewの個人発表にも参加した。内容は「性と脳神経科学」であり、日本で話題となっているような女性脳・男性脳のような話も少なからずあった。彼からは帰国後、発表内容についてのドラフトを送付してもらった。
また、Lipsmanらの発表、“Enhancement, psychiatry and neurosurgery: Qualitative studies in applied neuroethics” にも参加した。彼は医者であり、医学的な観点から、現時点は精神医学、25年後はBMI、50年後はエンハンスメントという実践が医学的に可能になるであろうという視座のもと、精神医学やエンハンスメントへの印象について質的研究を患者群に対して行っている。
学会でのシンポジウムが終了した後、夜にはSocial eventが開催された。こちらは初日のレセプションとは少し様子が異なり、カナダ名物のロブスターなどを着席して食べながら、ゆっくりと会話を楽しんだ。ここでは、脳神経倫理学の研究を牽引する研究者の一人であるマーサ・ファラーと知り合うことができた。また、近くに座っていたEricとは比較的長時間話すことができ、2010年にモントリオールで開催される予定のBrain matters Ⅱへの我々のチームの招待があった。
学会最終日、9/26は、日本での知人である福士フェロー(JST)、石原先生(東京大学)、そして初日のレセプションで知り合ったWuさんがパネルセッションを開催しており、そこに参加した。 福士フェロー、石原先生からは日本における脳神経倫理学の状況が紹介された。私の興味を特に引いたのは専門が近いWuさんの発表であった。Wuさんは、pTAの背景として、一般市民の科学に対する信頼の欠如、またボトムアップ型の政策決定の必要性を紹介した後、台湾のBrain bankについて、ステイクホルダー(患者、家族、医療関係者など)への質問紙調査の結果の一部を発表した。ここでは、欧米のように個人が中心となり意志決定する状況とは対比的に、台湾の家族中心の意志決定の状況が明らかとなっていることが示された。つまり、個人の意志決定に家族の意志決定が大きな影響を与えているという図式である。
また、東京大学での友人である小口くんの個人発表にも参加した。彼の発表は、侵襲性(invasiveness)に関わるものであり、脳神経倫理において侵襲性という基準が、拡張された心の理論を援用すれば、ほとんど意味がないものであるという内容であった。学会最後の発表は、知人であるNail Levyからのものであり、脳神経倫理学と人間の本能との関係についての哲学的議論であった。
Brain matters全体を通して、カナダ、そしてハリファックスという場所からか、暖かみのある、フレンドリーな学会であった。発表を行い、発表内容を聴くだけでなく、人的交流も十分に出来、個人的には満足のいく学会参加であった。可能であれば、モントリオールで開催される予定のBrain mattersⅡへも参加したいと思った。最後に、このような貴重な経験を可能としてくださった、佐倉先生はじめ、佐倉研関係者の方々には感謝を表する次第である。
Brain mattersは2009年9/24-9/26の期間において、カナダのハリファックスにおいて開催された、脳神経倫理学を中心テーマとした学会である。
学会初日となる9/24は、夜にレセプションが開催された。アルコールや軽い食べ物を片手に、様々な人々と会話を楽しんだ。台湾大学のWuさんとは、9/26のパネルセッションNeuroethics in Asiaのことについて会話をした。学会参加前から、機会があれば話したいと思っていた、Andrew Fenton(Dalhousie大学)とも知り合うことができた。Andrewは脳神経倫理の分野で注目される若手研究者であり、特にカナダでの脳神経科学デバイスの規制や、拡張された心の理論を脳神経倫理学の議論に援用しようとしている。彼とはかなり長い時間話すことができ、自分自身の研究の紹介や、Andrewが9/25に行う予定であった発表「脳と性」の発表内容についても話すことができた。また、同じDalhousie大学のChrisとSimonとも知り合えた。Chrisは哲学的な観点から脳神経倫理学にアプローチしており、Simonは社会学やSTSの領域から脳神経科学にアプローチを行っている。特にSimonは専門分野が近いこともあり、自分自身の研究の状況や今後の展望などについて有益なやり取りができた。以前、東京に招いたこともあり、親交のあるEricとは、彼の東京での滞在のことや、カナダの脳神経倫理学の現状について会話を行った。概して、Brain mattersのレセプションは、人と人の対話が起こるような空間が演出されていたように思う。
9/25は早朝からのポスター発表で幕を開けた。私自身のポスターは、脳神経科学の一分野であるBMI(Brain-Machine Interface) について、市民と専門家が、そのリスク、ベネフィットなどについてどのような認識を持っており、両者の認識の間にはどのような差異が存在するのかを明らかにしようとしたものである。ポスターを見に来ていただいた人々からは概ね好評であり、特に、Dalhousie大の神経科学部長Alan Fineからかなりの反応があった。どのような形でかは詳細には話せなかったが、東大との研究協力、例えば交換留学など、の要望を持っているということを伝えられた。
自分自身のポスター以外では、Kuhlmeyer (Germany) の“Persistent vegetative state: Neuroethical insights from the dramatic Italian of Eluana Englaro” が印象に残った。彼女のチームの研究は、一人の植物状態の女性に焦点を当てることで、長期間参与観察を行っているというものであった。また、Bastien (Montreal)のポスターは、“Ethical and social challenges in healthcare for adolescents and young adults with cerebral palsy” と題されたものであり、脳性麻痺の若い世代の患者に対しての倫理・社会的問題を具体的な事例に基づいて扱ったものであった。
オーラルセッションでは、Ericらの “Social expectations for performance enhancement” に参加した。Ericらの発表は、以前に東京で発表してくれた内容の発展版であり、着実に研究が進んでいる様子が理解された。内容としては、Public Understanding of cognitive enhancementであり、市民がどのようにエンハンスメントを捉えているのかということについて、質問紙調査票を用いて研究を行っていた。Ericからは、何らかの形で、我々のチームとも将来的に国際比較など共同研究ができればという要望を伝えられた。
また、レセプションでも知り合ったAndrewの個人発表にも参加した。内容は「性と脳神経科学」であり、日本で話題となっているような女性脳・男性脳のような話も少なからずあった。彼からは帰国後、発表内容についてのドラフトを送付してもらった。
また、Lipsmanらの発表、“Enhancement, psychiatry and neurosurgery: Qualitative studies in applied neuroethics” にも参加した。彼は医者であり、医学的な観点から、現時点は精神医学、25年後はBMI、50年後はエンハンスメントという実践が医学的に可能になるであろうという視座のもと、精神医学やエンハンスメントへの印象について質的研究を患者群に対して行っている。
学会でのシンポジウムが終了した後、夜にはSocial eventが開催された。こちらは初日のレセプションとは少し様子が異なり、カナダ名物のロブスターなどを着席して食べながら、ゆっくりと会話を楽しんだ。ここでは、脳神経倫理学の研究を牽引する研究者の一人であるマーサ・ファラーと知り合うことができた。また、近くに座っていたEricとは比較的長時間話すことができ、2010年にモントリオールで開催される予定のBrain matters Ⅱへの我々のチームの招待があった。
学会最終日、9/26は、日本での知人である福士フェロー(JST)、石原先生(東京大学)、そして初日のレセプションで知り合ったWuさんがパネルセッションを開催しており、そこに参加した。 福士フェロー、石原先生からは日本における脳神経倫理学の状況が紹介された。私の興味を特に引いたのは専門が近いWuさんの発表であった。Wuさんは、pTAの背景として、一般市民の科学に対する信頼の欠如、またボトムアップ型の政策決定の必要性を紹介した後、台湾のBrain bankについて、ステイクホルダー(患者、家族、医療関係者など)への質問紙調査の結果の一部を発表した。ここでは、欧米のように個人が中心となり意志決定する状況とは対比的に、台湾の家族中心の意志決定の状況が明らかとなっていることが示された。つまり、個人の意志決定に家族の意志決定が大きな影響を与えているという図式である。
また、東京大学での友人である小口くんの個人発表にも参加した。彼の発表は、侵襲性(invasiveness)に関わるものであり、脳神経倫理において侵襲性という基準が、拡張された心の理論を援用すれば、ほとんど意味がないものであるという内容であった。学会最後の発表は、知人であるNail Levyからのものであり、脳神経倫理学と人間の本能との関係についての哲学的議論であった。
Brain matters全体を通して、カナダ、そしてハリファックスという場所からか、暖かみのある、フレンドリーな学会であった。発表を行い、発表内容を聴くだけでなく、人的交流も十分に出来、個人的には満足のいく学会参加であった。可能であれば、モントリオールで開催される予定のBrain mattersⅡへも参加したいと思った。最後に、このような貴重な経験を可能としてくださった、佐倉先生はじめ、佐倉研関係者の方々には感謝を表する次第である。
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